はてな近辺では昔から何かと話題のベーシックインカムですが、私には、これの何がいいのかがさっぱりわからんのです。
私の知識は、ここ数年のはてダのホットエントリとかに入った記事とか、小飼弾さんの404 Blog Not Found:ベーシック・インカムに賛成するのに十分なたった一つの理由とか、Wikipediaとか、その他ネットの記事くらいで、特に本とか読んで勉強したわけではないので、素人の疑問として疑問だけ投げておきます。
貧困をなんとかしたいなら、貧困層にだけ配るのがよいのでは?
ベーシックインカムといえば月5万円だか8万円だかが想定されることが多いけれど、何もたとえばダンコーガイにこれ以上お金をあげることもないのでは。
財源が足りるとか足りないの話もあるけれど、当たり前の話、今現在普通に食えている人にまで配るより、今現在食えていない人にだけ配るほうがコストは少なくて済む。限りある財源で貧困をなんとかしたいなら、生活保護の運用をまともにするほうが建設的じゃないか。
ここによれば2009年1月の生活保護世帯数が116万8354世帯、人員数が161万8543人。
Wikipediaによれば
所得が生活保護支給基準以下となるケースの内、実際に支給を受けている割合は、複数の研究において、いずれも約10〜20%となっている。
とのことなので、少ないほうで見積もって10%とすると、本当に支給が必要な人は1600万人。結構な数だけれども、日本の人口1億2千700万人に毎月5万円ずつ年間60万円配るより、1600万人に年間200万円配るほうがずっと安い。もちろん1600万人の中の90%は、現在貧乏ながらも生活保護の世話にならずになんとか食えているわけで、200万円満額支給する必要はないはずだから実際にはもっと安い。
現状の生活保護には水際作戦等いろいろ問題はあるとして、そっちを改善するほうが、ベーシックインカムよりはるかに安く、かつ現実的だと思う。住所がないと受けられないとかいうけれど(違法だが)、これは地方自治体が自分とこの予算が逼迫することを嫌って給付が必要でもよそへ行けと言っているのであって、だったら全額国庫負担にすればいいじゃないか(現在1/4が地方自治体負担)。その上で地方自治体ごとに予算を割り振って、年度末になると予算消化のために自治体職員が貧乏そうな家のドアを叩いて「生活保護いりませんか」と勧誘して回る、というレベルまで持っていっても、まだベーシックインカムよりは安く上がると思う。
月5万や8万じゃ食えないでしょ
これもまったく単純な話で、月5万や8万給付してもらったって、そんなんじゃ食っていけない。
現在ワーキングプアな人達が、なぜそんなに安い給料できつい仕事をしなければならないのかといえば、そのような、湯浅誠さんが言うところの「溜め」のない人たちは何であれとにかくすぐに働かないと来月食っていく金もないから足元を見られている、という面があるわけでしょう(学生バイトや主婦や年金生活者と競合しなければならないとか、他の要因もあるでしょうけど)。それをベーシックインカムで解決したいなら、落ち着いて職探しする数ヶ月とかの間、働かずに生活できなければいけない。そのためには月5万や8万じゃまるっきり足りないでしょ。
また、たとえば私はワーキングプアでなはいレベルの給料をいただいているけれど、これに毎月5万や8万増えたからって、それだけでは食えない以上、仕事をやめるわけにもいかず、また現状特に不自由してないわけだからさして消費に回るとも思えない。仕事帰りに居酒屋に寄る回数が増えるくらいか。いやそれは家計より先に体を壊しそうだ。
小飼弾さんの記事によれば、「少ないように思えるが、家族単位だと生活保護の支給額より多い。」とのことだけれども、暴力虐待離婚その他の理由で家族から離れた人や非モテ非コミュは見殺しか。上に挙げた生活保護の世帯数と人員数を見る限り、ほとんどの生活保護世帯は単身のようだし。家族はなくともルームシェアとかすればよいのかもしれないけど、それなら現状のワーキングプアだってルームシェアすればよい話。そうなってない以上、現在の日本人にとって、ルームシェアは「貧乏よりも厭なこと」らしい。それを強いるのか。
いくらろくでなしでも見殺しにするわけにはいかないでしょ
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50907051.html
ベーシック・インカムが始まれば、当然それで飲んで打って買うものも出るだろう。しかしそういった行動にオカンのごとく文句を付け、「正しい行動」を押し付けるのは、自由主義の主張に悖る。ベーシック・インカムの世界においては、それで身を持ち崩すことに対する言い訳は出来ないのだ。
http://d.hatena.ne.jp/qktn/20100221/1266769423
堀江：生活保護だって、もらったお金でパチンコをやる人もいるはず。そこまでくると、そういう人を救う意味はないのではないかとおもう。BIにしても、BIを担保に金を借りるやつがいずれ出てくるだろう。そういうどうしようもない人たちにたいして、現状はどう対応しているのか。
雨宮：支援団体によって対応が違う。救われていないケースが多い。
じゃあそういう人たちは道端で野垂れ死ぬのがよいのか。そういう「残酷さ」を避けるために我々は社会を作り、福祉を作りしてきたのだと思っていたのだけれども。
道端で餓死や凍死する人を放置できるのか(倫理的な話を一切横に置くとしても、すくなくとも撤去のコストはかかりそうだ)。また、それ以前に、そういう人たちは普通に考えて生きるために犯罪に走るのではないか。
http://d.hatena.ne.jp/dondoko9876/20100108/1262887915
こんなひとがいましたな。
神戸の簡易宿泊所に住民票を置いて、生活保護をようやく貰えた人がいらっしゃいました。
「ええか、何があっても宿代は一番に納めるんやで。宿を追い出されたら生活保護がパーになるんやで。そしたらまたホームレスやで。」
こんこんと言い聞かせました。ところが別れたその足で立ち飲み屋さんに行ったらしく、へべれけで宿舎に帰ったときには一文無しのカラッケツ。
明日っからどうやって食べていくつもりだったんだか知りませんが、家賃が払えないから直ちに追い出されて、街金にカネを借りに行ったそうです。
「あほかっ」と一喝されたら、そのまま行方不明です。
さて今頃はどうなっているやら。成人ばかりの親子四人が生活保護と言う人がおりましたな。
借金で火だるまになっているというので聞いてみると、保護費をヤミ金が全部持っていってしまい、その家族は毎日ヤミ金の所に一人につき千円ずつもらいに通っているんだと。
それはひどいじゃないかと抗議に行きましたら、ヤミ金の兄ちゃんが言うんです。
「そらあ、わしらのやってるのは違法やと言われたら違法やで。そやけど人助けやねん。あの一家にまとまったゼニ持たしてみ、二日と持たへんで。」
聞けば、そのヤミ金があちこちの金貸しに話を付けて、あちらに三万、こちらに二万と毎月分割返済しているそうで。それで取り立てを止めてやっているのだと。
まあそうかも知れないけど、それはやってはいけないことだからと話をして、生活保護費が入る通帳を取り返して親子に渡しました。
翌月。
保護費が入った二日後。
すっからかんになったと泣く親子がおりました。
どうしたのかと尋ねると、特に何に使った覚えもないのに、気がつくと全部なくなっていたと。
使わないのになくなるはずがないじゃないかと問いつめると、パチンコで使っちゃったと。
やはは、ヤミ金さんの仰有るとおりのご家族でしたな。
たとえこういう人たちであっても、道端で飢えて死んでるのを見るのは少なくとも私は厭だし、それが平気な人(いるのか?)でも、こういう人が犯罪に走れば直接不利益をこうむるわけでしょう。
パターナリスティックと言われようと、こういう人にはケースワーカーを付けて支出をちゃんと管理してやらないとなんともならんのでは。そのコストがベーシックインカムを上回るなんてことは、いくらなんでも上記のとおりまずないと思うし。
スティグマ?
生活保護とベーシックインカムを比べて、ベーシックインカムのメリットとして私が唯一理解できるのは「スティグマ」の話。生活保護を受けることが社会的にも自分の意識でも「傷」(恥)とみなされるなら、貧乏しても生活保護を受けようとしないでしょ、ということ。でも、ベーシックインカムでなんとか食えるならそれもありかもしれないけれど、月5万や8万じゃ、働けない人は結局何らかの公的支援が必要で、結局そこではミーンズテストがつくわけで、これじゃああんまり変わらないのでは。
以上、すげえ楽観的に見た話
実際にベーシックインカムなんぞ導入した日には、円が下がって中国産の安い商品が高くなるとか、インフレするとか、ベーシックインカム分を見込んで給料が安くなる(ウォルマート方式)とか、いろいろ起きそうなんですが、上記はそれらを一切無視した話。こんなに楽観的に見ても、私にはメリットがさっぱりわからない。
最初に書いたとおり無知ゆえかと思うので、教えてくださいえらいひと。
参考：
努力しない人を国家が救済すべき１４の理由 - 分裂勘違い君劇場 by ふろむだ
野崎泰伸「生活保護とベーシック・インカム」
