ネットで実名を公開するリスク

http://d.hatena.ne.jp/amachang/20091006/1254823331
http://d.hatena.ne.jp/nowokay/20091007
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51302729.html

何度となく繰り返された話題ですが、勝間和代さんの記事から再燃しているようなので、以前から思っていたことを書きます。
なお、私自身は、ネット上では実名を出していますが、なぜそうしているのかといえば「当時はみんなそうしていた」というのが理由です。いまどきの若い人*1には信じられないかもしれませんが、昔は「(パソコン通信ならともかく)インターネットでは実名」という文化があったのです。

まず

実名/匿名論争では、固定のハンドル(顕名)を実名とほとんど同じに扱うような論調もあります。きしださんの記事とか弾さんの記事とか。
長年続けてきたブログのハンドルは簡単には捨てられないので、「発言に責任を持つ」という効果において、ハンドルはある程度実名(戸籍名)と同じように扱ってよいかもしれません。ただ、私がここで書きたいのは実名の「リスク」なので、ここでの実名は戸籍名を指します。戸籍名は簡単には捨てられない上、上司やお客様やご近所さんに事実上強制的に名乗らざるを得ないものです。もちろん実名はユニークなIDではないので、山本一郎さんと前橋和弥ではリスクがずいぶん違いますが、姓と名の組み合わせならそこそこ絞れてしまうので(Googleしても私以外の前橋和弥は見たことがない)、結構個人が特定できることは確かでしょう。

実名のメリット

リスクはベネフィットと比較して検討するのが正しいと思うので、まずは実名のメリットから。
私なんかは実名で本を出したりしているので、どちらかというと「実名でメリットを得ている」側になるのかと思います。しかし、本を書くならペンネームで書くこともできるのであって、印税や原稿料はペンネームで書いても同じようにいただけるはずです。にもかかわらず実名を出すメリットとしては、社内、社外にて有形無形に評価されるということがあるのかもしれませんが、社内的にはなにしろ副業なので会社に断って書くのですから「あいつが本を書いている」ということは周知されるわけですし、お客様とかにアピールしたければ、「この本の著者の○○ってのは実は私なんですよ」と言えばよいことに思えます(ま、嫌らしいですが)。アピールする相手と知られたくない相手を取捨選択できるぶん、ペンネームの方が便利な気もします。
その他のメリットとしては、小学校時代の友人からメールが届いたとか、実名を知っている友人にメールアドレスを聞かれたとき「ぐぐってくれ」の一言ですんだりとかありましたけど……まあ、どうこう言うほど大きなメリットではないように思います。

実名のリスク

さて次は実名のリスクです。
実名のリスクとひとことで言っても、その中には、ふたつのリスクがあるように私には思えます。
ひとつは、ネット上で意見が対立したり、あるいは美人な女性が顔出しして横恋慕されたりした「見知らぬ人」が、自分に対して危害を及ぼす、というリスクです。これを「ストーカーリスク」と呼ぶことにしましょう。
もうひとつは、職場の同僚や上司、客先、親や親戚その他の「知人」に、Webサイトやらブログやらがばれる、というリスクです。これを「サイトばれリスク」と呼ぶことにしましょう。
実名を公開する場合、「サイトばれリスク」は、当然最初から覚悟しておくべきリスクです。もちろん実名を出せば100%同僚上司客先両親親類一同にサイトがばれるわけではないですが*2Google一発でほぼ確実に引き当てられてしまう以上、たとえばエロゲのレビュー記事は実名では書けないでしょう*3。ハンドルなら書けるでしょうが。
ではハンドルを使えば「サイトばれリスク」は心配しなくてよいのかというと……もちろん相当に軽減できるのは確かでしょうが、「サイトばれ」という言葉が存在すること自体が示しているように、ハンドルはこのリスクに対して完全な対策ではありません。たとえば「職場が今日から全面禁煙になった。嫌煙はわかるけど喫煙所までなくしてしまうのはやりすぎではないか」というブログ記事を書いたとして、職場の誰かが「同僚に、ブログとか書いてるやついないかな?」と思ったとしたら、全面禁煙になった翌日ぐらいにブログ検索で最近投稿された記事を検索すれば見つかってしまいます。会社の飲み会の話をリアルタイムで書いても同じです。それでなくても職場にはいろいろスラングがあるものなのであって、「今作っているシステムがもうじき号口なので最近忙しい」と書けばあの会社のシステムを作っていることがばれてしまうでしょう。ハンドルだからといって、会社の愚痴なんかはあまり書かないほうがよさそうです。
しかし、現在「ネットで実名を公開するリスク」として主に喧伝されるのは、どちらかというと「ストーカーリスク」のほうなんじゃないでしょうか。
もちろん、実名を出せば「ストーカーリスク」は上がります。でも実際それがどの程度のリスクかというのを定量的に考えるとどうでしょうか。
私自身は、これといって「ストーカーリスク」に晒された覚えはありません。
お前一人の経験からそんなことを語るな、という指摘はもっともですが、たとえば昔から、本とか書く人は、ペンネームで書く人もいましたが実名の人も大勢いました。ペンネームの人だって調べれば実名がわかることが多かったものです。ストーカーの被害をもっとも受けそうな女性アイドルにしたって、実名で活動していたり、芸名だったとしても調べれば実名がわかるケースが多いように思います。テレビのクイズ番組のような視聴者参加番組で実名が公開されることも多いですし、スポーツ選手や高校球児も多くは実名です。なあに、あなたのブログなんて、本屋で売っている書籍やテレビ番組ほどの注目を集めるはずがないじゃないですか。
念のために繰り返しますが、実名を公開すれば「ストーカーリスク」は上がります。でもそれは、大多数の人には降りかからないリスクです。
小なりとはいえリスクがあるなら、メリットもあんまりなさそうである以上、ハンドルにしたほうが得だよね、という判断は尊重します。しかし、私から見ると、現状では、実名公開による「ストーカーリスク」がかなり課題に喧伝されているように思えるのです。
まあこれなんかはいくらなんでも極端な例かと思うのですが、以前「実名を公開することにより、確実に「家族や親族に嫌がらせが行われる」と主張した人がいました。しかし、こんな妄想毒電波ゆんゆんとしか言いようのない発言にさえ、同意のコメントやトラックバックが付いているというのが現実です*4
何度も繰り返しますが、実名公開で「ストーカーリスク」は上がります。しかし、私を含め、多くの人が、実名を公開してもこれといった「ストーカーリスク」は受けていません。現実問題、実名公開による「ストーカーリスク」の増大はさほど大きくない、と考えるべきでしょう*5
しつこく繰り返しますが、実名公開で「ストーカーリスク」は上がります。しかし、現実から乖離したネットで実名を出すと天変地異が起きるぞ論は、現実から乖離しているという一点からしても、不健全だと言いたいです。

まだ続きがあるのですが、いいかげん眠いので続く。

*1:年寄りの言葉だなあ……

*2:おそらくうちの両親は、私のWebページを見たことは一度もないと思う。PCオンチなので。

*3:実のところこれはまさにid:y_arimが言うところのそれは世間が、ゆるさないなんですが、この場合実際「世間がゆるさない」ケースでしょう。私は別にエロゲをするのは自由だと思っていますので。私自身はやりませんけどね。

*4:Beyond氏の当時の状況(某事務所から脅迫されていた頃のはず)からすればこんなことを言いたくもなるかも、というのはわからなくもないですが、むしろ賛同のコメントやトラックバックがついていることの方が問題でしょう。

*5:実名はさておき勤務先は公開しないほうがよいかも。id:amachangの例から言っても、そちらのリスクの方が高そうです。ちなみに私は初期の著書では当時の勤務先を書いていますが、これは会社の許可を得ました(というか、会社のほうから書けと言われた)。また、ハンドルを使っていても、「行きつけの飲み屋」を公開したら、簡単に本人に会えてしまうことでしょう。