「カレー無料法」は思考実験にも何にもなってない

mojixさんの記事:
もしも「カレー無料法」ができたら - モジログ

いやさ、mojixさんはどうせいつもこんな感じなのだけども、賞賛しているブクマコメントが多いのに引いた。
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これを「思考実験」と言うのなら、ある状況を仮定したとき次にどのような状態になるのかを論理的に説明できなければいけないでしょう。この例では、
『「お金のない人にも、せめてカレーくらい食べさせてあげよう」という趣旨のもと「カレー無料法」が制定され、政府が一食500円の補助金を出して飲食店にカレーを無料で提供させる』
という状況を仮定しています(その前の、補助金なしでカレーを無償提供させる例はあまりにも非現実的なので割愛)。

もし本当にこんな状況になったら何が起きるか。mojixさんの言うように、みんなカレーばかり食べるようになって他の飲食店が壊滅するのか。

んなわきゃない。当たり前だが、500円の補助金で無料で提供できるカレーには、500円以上の価値はない。店が架空請求でもしない限り、500円の補助金をもらうためには、材料費と人件費をかけてカレーを作り、広告し、店舗を構えて、カレーをお客さんに実際に食べてもらわなければならない。よって、売値で500円以下のカレーでなければ商売にならない。「(売値500円以下の)カレーならただで食えるとしても、金払ってもいいから他のものを食べたいと考える人」は別の店を選ぶはずだ。市場原理ってそういうもんだろう。

牛丼屋のように、もともと単価の安い店とは競合するかもしれない。しかし毎日カレーじゃ誰だって飽きるし、タダのカレーを提供する店はホームレスさんとかが主な客層になりそうだから*1、ある程度お金のある人はそういう店は避けるだろう。ホームレス向けの炊き出しは、別に「ホームレスであることの証明」を求めたりはしないから、たとえば私が列に並んだって何か食べ物をもらえるんだろう。だからって私は並ぼうとは思わない。そういう話。

ところで、上記仮定では「補助金が500円であること」が前提になっている。これは、もともとの想定が、「お金のない人にも、せめてカレーくらい食べさせてあげよう」という趣旨の法律だから、まさか補助金を3000円にするわけにはいかなかった、ということだろう。いやさもちろん実際には500円でも世論の支持は得られるわけがないんだけどそれはさておき。もしこれが、「カレー大好きな王様が、何が何でも国民にカレーを広めようと、カレーに限り1食あたり3000円の補助金を出した」ということだと話が変わってくる。補助金が3000円出るんなら、本来1000円のカレーを出しても2000円余計に儲かる。カレーばかりじゃ客も飽きると思うけど、「本来1000円の価値のランチの端っこにカレー粉をかけてカレーだと言い張る」という手も使えるかもしれない。こういう状況なら、確かにmojixさんの危惧する状況が起きるかもしれない。

でも、そんな状況、ありえないでしょ。

mojixさんがこのたとえ話において「お金のない人にも、せめてカレーくらい食べさせてあげよう」というカレー無料法の趣旨、および500円という補助金の金額を設定したのは、「これぐらいの設定ならまあ無理がないだろう」という想定があったわけでしょう(もちろん実際には1食500円の補助は世論の支持は得られるわけがないんだけどまあ3000円よりはマシだ)。しかし、この設定の上では、mojixさんの「思考実験」におけるその後の展開には無理がありすぎる。

わかってやってるのなら読者をだます行為ですし(だまされる方がひどい、というレベルですが)、本人もこれを信じちゃってるのだとしたら――ちょっともう救いようがないとしか言いようがない。

参考:
「カレー無料法」の馬鹿馬鹿しさは比喩の馬鹿馬鹿しさだ - 紙屋研究所

*1:「お金のない人にも、せめてカレーくらい食べさせてあげよう」という趣旨の法律なのだから、身なりが汚いからって入店を拒否することはできないはずだ。